技術情報
アスファルト改質技術
アスファルトの
優れた機能性
ブローイングや高分子樹脂やオイルの添加によるアスファルトの改質は、アスファルトに機能性の向上や感温性の変化などの様々な変化をもたらします。
このアスファルトの改質は高機能アスファルト製品に関わる重要な技術であり、その基礎研究は改質技術の発展に不可欠です。
ベースとなるアスファルトは古くからある機能材料ですが、複数の成分が混ざり合った複雑な相構造を持つため、その物性の測定が困難です。
このため、アスファルト、改質アスファルトの物性解析のために様々な要素を考慮した測定方法を考える必要があります。
私たちはこれまで大学との共同研究などにより、アスファルトの改質機構解明の一助を担ってきました。
ここではその成果の一部をご紹介します。
SBS添加による
アスファルト改質機構の解明
(図1)アスファルトとSBSの相溶関係
スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBS)はアスファルトの改質材として用いられる代表的な樹脂の一つです。 SBS はポリスチレン(PS)ブロックを末端に持ち、ゴム弾性を持つポリブタジエン(PB)ブロックを中間ブロックに持ちます。 他の高分子が30~40wt%以上の添加量でアスファルトの改質効果を発揮するのに対してSBSは10wt%未満の少ない添加量で大きな改質効果が得られます。 これはSBSがアスファルト中に分散混合しているだけでなく、SBSとアスファルトが何らかの作用を伴い混合していることを示唆しています。
このSBSによるアスファルト改質機構を調べるため、私たちはアスファルトの成分であるマルテン、アスファルテンとSBSのスチレンブロック、ブタジエンブロックのガラス転移点(Tg)の変化に着目し、測定をおこないました。 その結果、マルテンはSBSのPBブロックと優先的に部分相溶するのに対して、高分子量成分のアスファルテンはPSブロックと主に部分相溶することがあきらかになりました[1](図1)。
また、レオロジーおよび力学的性質の測定により、少ないSBS添加量(例えば、10wt%未満)でさえ混合物の粘度、針入度、および引張強さが大きく変化することがわかりました。 このレオロジー変化はSBSとアスファルトの混合物がゲル構造を形成することによるものと考えられています。
改質アスファルトの構造を模した
熱安定オイルゲルの作成
上記の先行研究から明らかになったSBS改質アスファルト中でのPSブロック、PBブロックとアスファルト成分のアスファルテン、マルテンがそれぞれ選択的に相溶する機構を応用し、私たちは改質アスファルトと同様の構造を持つ熱安定オイルゲルの作成に成功しました[2](図2)。溶解度パラメータから予測されるSBSのPSブロックやPBブロックとの相溶性を考慮し、選定された耐熱性樹脂と溶媒を実験に使用しました。
ある濃度以上のSBSと油溶媒を混合すると、油溶媒中でSBSのPSブロックが凝集し、ネットワーク構造を形成してゲル化します。油溶媒とSBSで構成されるSBSオイルゲルは機能性に優れますが、熱的に不安定なため夏場の外気温のような高温環境下での利用には向きません。 しかし、耐熱性樹脂を用いた熱安定オイルゲルは通常のSBSオイルゲルよりも30℃も軟化点が高く、広い温度範囲で機能材料として利用可能な耐熱性を備えます。 また、耐熱性樹脂を加えることでより少量のSBSでオイルゲルを作成することができることや、耐熱性樹脂の添加量によりSBSオイルゲルの相構造が変化することがわかりました。 これらの結果は、特定の耐熱樹脂の添加によってオイルゲルの物性を制御できることを示しています。
(図2)熱安定オイルゲル
(図3)エンジニアリングプラスチックを用いた熱安定オイルゲル
さらに、実製品への展開を考慮し、エンジニアリングプラスチックを用いて熱安定オイルゲルを作成しました(図3)。この熱安定オイルゲルを用いた防水シートは改質アスファルトルーフィングと同等の初期防水性能を備えており、熱安定オイルゲルが防水材の原材料として使用できる可能性を示しました。 これらの熱安定オイルゲルの作成成果は、新しい防水材の開発だけではなく今後のアスファルト改質技術の向上に寄与するものと期待されています。
参考
- S.Kamiya, S.Tasaka, X.Zhang, D.Dong, N.Inagaki, Compatibilizer Role of Styrene-butadiene-styrene Triblock Copolymer in Asphalt, Polym. J., 2001, 33, 209-213.
- Kato K, Tsukamoto Y, Hirai E, Matsuda Y, Tasaka S, Thermal Stability Improvement and Structural Change of Oil Gels Formed by Styrene-Butadiene-Styrene Triblock Copolymer Induced by Adding Poly(phenylene ether), Open J. Org. Polym. Mater., 2014, 4, 65-73. https://dx.doi.org/10.4236/ojopm.2014.44009
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